『虜人日記』小松 真一 (筑摩書房)

投稿者: たけし 投稿日:2007/09/09
カテゴリー:【新書・文庫】 【たけし】 【おすすめ度:☆☆☆☆

 本書は酒精技術者であった著者が、太平洋戦争さなかのフィリピンに派遣されてから捕虜生活を経て日本に帰国するまでの生活を克明に書き綴った手記です。太平洋戦争に関する手記の中では前線の兵士のものや、戦藻録といった名のある将校のもの、国内の被災者や満州からの引揚者のものが全体に占める量としては大部分であると思われます。しかし本書は (1)フィリピンという激戦地で (2)軍属という直接戦闘に参加しない身分の科学者が (3)戦争と捕虜生活での体験を日本に帰国するまでに書き留めている、という点において極めて特徴的です。つまりこれは、従来の戦争手記にはあまり見られないタイプの経験談です。そのため本書の最初の1/4が酒精製造の話に当てられ、次の1/4では戦闘をすっ飛ばしていきなり山地での敗残生活、最後の1/2が捕虜生活に充てられており、彼はずっと日本軍と行動を共にしているにも関わらず、どの局面においても軍人や軍隊の存在を極めて冷めた目で観察しています。彼は激戦地にいて、敵を目の前にしているにも関わらず、特に勇んだり悲壮感を漂わせたりしませんし、山地に逃れて餓死者が大量に出ているにも関わらず、米軍や国に対してただ恨み節を喚くような事もありません。最も記述の多い後半の捕虜生活においては、食料が供給されている安心感からか、寧ろ周りの様子を見て楽しんでいるような印象さえ持ちます。また、著者に社会人としての経験と科学的思考が身についているため、いろいろな物事を観察する眼が複眼的であり、挿入されるエピソードは当時の生活関連の話から処世の話、サバイバル生活の話、男女間の出来事などなど多岐にわたっている上に随所に独自の見解が示されています。読後感は、タイトルから受ける哀れな雰囲気を良い意味で裏切って、戦争に対するものの見方を大きく拡げてくれる事と思います。

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