Web2.0時代に入り、人々は大量の情報に曝されるようになりました。ネット上には嘘や憶測がもっともらしく飛び交い、掲示板では様々な情報の真偽が議論されています。西洋の情報科学の世界では、有象無象の情報(information)の中から、自分の目的に役立つような最も正確な情報を審査して導き出す技術を、"インテリジェンス(intelligence)を抽出する"と言い、非常に重要視されるそうです。昔はごく一部の専門家が身につければよかったこの技術も、今ではネットを利用する万人が身につけるべき教養となりつつあるということでしょうか?このインテリジェンスを抽出する技術の重要性を示す一つのエピソードが、今回紹介する本に収録されています。第二次世界大戦時の陸軍情報参謀 堀 栄三 のエピソードです。
堀 栄三は元々騎兵畑の軍人でしたが、大戦の途中で大本営の情報畑に転じます。そこで堀は、アメリカ軍戦法を研究するためにガダルカナル戦以後の戦闘詳報を分析しました。その過程で明らかになったのは、大本営が現場からの不正確な情報や希望的観測を前提条件にして次の作戦を立て、それを元に派遣された現場の兵士が続々と全滅する悪循環に陥っているという実態でした。堀は日本軍の情報軽視から立案される作戦計画と現実の戦況との齟齬を改善するために自らの研究成果を冊子に纏めて前線に飛びました。その途上で降り立った航空基地にて、堀は大本営に送られる不正確な情報が生み出される現場に遭遇する事になります。
本書全体のボリュームからすると堀のエピソードはほんの少しなので、彼に興味を持たれた方は別の文献にも当たってみる事をお薦めします。
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