『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影―躍進するIT企業・階層化する労働現場』横田 増生(情報センター出版局)
投稿者: かーくん 投稿日:2007/02/09
カテゴリー:【ビジネス・経済・キャリア】 【コンピュータ・インターネット】 【か〜くんの紹介】 【おすすめ度:☆☆☆☆】
グーグルについての本はたくさん出ているが、それに比べてアマゾンに関する本は少ない。それは徹底したアマゾンの秘密主義が影響している。そのアマゾンの秘密を配送センターへの潜入取材によって暴こうとしたのが本著である。
ニューエコノミーの影響について改めて感じられる1冊であった。グーグルについての本を読んだ人、『ウェブ進化論』や『フラット化する世界』を読んだ人には次の1冊に是非薦めたい。
アマゾンの成功の一要因として、ITを駆使した流通システムの効率化が挙げられる。これにより需要予測の精度は上がり、返品率が他の書店と比べて格段に低くなっている。加えて配送作業を誰もができる仕事へシステム化した点がアマゾンの凄いところである。これらによって私たちはこれまで以上に手軽に探したい本を見つけて、すぐに読むことができるようになった。
しかし恩恵を受けている人を見てみると、アマゾン利用者の75%以上が世帯収入が500万円以上の人である。配送センターで作業しているアルバイトは、時給が900円に固定されており、年収は200万円ほどしかない。筆者によれば「アマゾンで買ったことがある」と答えたアルバイトはいなかったそうだ。
しかもそこで働いているのは、長年アルバイト生活を続けてきた中年男性が中心である。アルバイト以外の仕事につけない人を食い潰すことによって成り立つシステムなのだ。
システムを作る側やそれに出資できる人の所得は増加していくが、そのシステム内で単純作業の繰り返しをしいられる人たちは、所得が低水準に固定されてしまう。このような格差拡大化を筆者は、「アマゾン化」と呼んでいる。アマゾンだけでなく、日本のあちらこちらで見られる現状である。
ニューエコノミーの登場により私たちの生活は便利になった。その影で低賃金の単純労働から抜け出せない人たちもいる。私たちは、このような便益と損失のあり方を一考すべき時を迎えているのではないだろうか。ニューエコノミーの影を感じる上で、有益な1冊である。
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